はじめての業務用刺繍機(ミシン)&刺繍ソフトの選び方
皆さんこんにちは
ハピメイド手芸教室のmichiyoです。
今日は、これから「刺繍で商売を始めたい方」に向けた情報です。
個人で刺繍ビジネスは始められる?
コロナ禍で洋裁を始める方が増えているとお聞きしていますが、それに関連してか刺繍に興味をもたれる方も増加傾向にあるような気がします。
以前、個人向けにまとめた「家庭用刺繍ミシンの選び方」へも、毎日たくさんの方より訪問を頂いているようですよ。
そんな方の中には、ビジネスに利用したい方もいらっしゃるかも知れませんね。
フリマサイトなど個人売買できる環境が年々充実しているので、在宅でお仕事できるスモールビジネスとして検討される方が増えるのも頷けます。
設備の初期投資は必要ですが、母材や糸などのランニングコストはそこまででもありません。また刺繍と言えば、以前は高度な専門知識やテクニックが必要でしたが、今はソフトの機能が向上していますので、ある意味初心者でも参入しやすい業界と言えるのかも。
大量生産は既に海外へ進出済みですので、国内は小回りが利いてきめ細かなサービスができるところが生き残っていきます。
ただ、刺繍業界って閉鎖された世界で、ネットなどでもあまり情報が公開されていないような気がするんですよね。既に立ち上げていらっしゃる方には逆に好都合なのでしょうが、全くの初心者が何のツテもなく始めるにはちょっと難しい世界なんじゃないかな~
こちらのサイトに検索でたどり着いた方も、そうしたきっかけかも・・
そこで今日は、「刺繍ビジネスを始めるのに必要なものは何?」についてご紹介します。
今回はあくまでもスモールビジネス向け情報です。工場で扱うような大きな刺繍機は除きます。個人で刺しゅうサービスを始める際に必要なスタートラインとしてご参考ください。
初期投資はいくらかかるの?
刺繍を始めるのに必要なものは、下記3点です。
- 刺繍機
- 刺繍ソフト
- 副資材(糸・母材・芯など)
もちろん、データ制作は外注する、あるいは逆にデータのみ販売するなど、片方だけに絞ったビジネス形態もあるでしょうが、基本セットで必要な物としてここではご紹介しましょう。
また場合によっては、プレス設備やカッティングマシンなども必要となるかも知れませんね。内容によって差は出ますが、刺繍ビジネスを始める為には最低ラインとしても100万円はくだらない予算が必要となります。
ビジネスに必要な刺繍機(ミシン)とは?
刺繍機の種類
以前、家庭用の刺繍ミシンを何台かご紹介しました。
刺繍機(ミシン)の場合も縫製に使用するミシン同様、家庭用と工業用に分かれています。また、その中間位置的な職業用と呼ばれるクラスもあります。
ところで「刺繍ミシン」と「刺繍機」について、これまでひとくくりで紹介してきましたが、刺繍ミシンというと枠を外せば縫製用のコンピューターミシンになる、いわゆる家庭用を指すことが多いです。言い方を変えれば、縫製の延長線上で刺繍ができる高性能ミシンですね。
一方、刺繍機は刺繍専門として設計されたものを指すことが一般です。
- 刺繍ミシン・・・縫製以外に刺繍も出来る高性能な家庭用ミシン
- 刺繍機・・・刺繍専用に作られた業務用マシン
ビジネスとして使用するには、刺繍専門に設計された「刺繍機」を選ぶのが良いでしょう。
刺繍機は、一頭式(シリンダータイプ)、少頭式(シリンダータイプ)、多頭式(フラットタイプ)と3つに分類されます。
後者の2つは生地一面に刺繍したり、同時にたくさんの刺繍をこなす工場向けの設備ですので、小規模で購入する場合は一頭式(単頭機)から探すことになります。
業務用刺繍機のメーカー
代表的な刺繍機メーカーは下記の3社です。
縫製ミシンユーザーには、あまりなじみのないメーカーかも知れませんね。
何れも国産メーカーですが輸出が大半を占め、世界中で多くのシェアを持つ企業です。
タジマは世界でもトップレベルで、静音設計や自動上糸テンション調整など常に先端の技術開発を行っている企業です。バルダンは老舗企業でスポーツ用品業界などでは耐久性・信頼性などで高い評価を得ています。ハッピージャパンはシンガーブランドの生産元と言えば分かりやすいかも知れませんね。こちらは小型で低価格ながら高品質な刺繍として海外で定評があります。
その他海外勢もありますが、よほどの理由がない限り上記3社より選べば間違いないでしょう。
また、家庭用刺繍ミシンでおなじみのブラザーやジャノメからは、刺繍に特化した職業用クラスのモデルも出ています。こちらはお付き合いのあるミシン屋さんで取り扱いがあるかも知れませんね。ある程度の耐久性はありますし、コンパクトなので置き場所にもさほど困りません。なによりお値段を抑えてありますので、そこまで長時間稼働しない方には候補のひとつとなるでしょう。
業務用刺繍機の選び方
1頭式刺繍機の場合は、大体80~200万円くらいが相場です。
縫製に使う工業用ミシンと比べると、どうしても高いイメージがあるでしょうが、これでも随分と安くはなってきたんですよ。中古を探す場合は、デモ機など信頼のおけるものに絞った方が無難かもしれませんね。
刺繍機の選び方の切り口はいくつかありますが、先ずは使用できる枠の大きさがポイントになるでしょう。刺繍できる範囲が広い方が、価格も高くなる傾向にあります。
もちろんスポーツ店向けなど、特殊な枠が必要な方は専用枠やクランプの有無も決め手になります。
また大量生産する場合は、セットアップの時間が生産性に大きく影響します。セットアップとは枠のセットや糸替えなどの準備時間の事です。針の数が多くなれば糸替えの回数は減りますが、その分お値段は高くなります。
その他、最高回転数などのスペックをはじめ、自動糸調子の精度や布押えの技術、レーザーポインタ有無など、メーカーやグレードによってそれぞれ特徴がありますので、目的に応じてベストの一台を選んでください。
刺繍機の導入例
縫製用のミシンほどではありませんが、刺繍機もかなりの種類があり、それぞれ用途に適した組み合わせでシリーズ化されています。下記に一部のモデルを抜粋しました。
大きな面積が必要
厚い生地や革などに最適
初心者も安心、調整不要のハイグレードモデル
コストパフォーマンスに優れた標準モデル
100万円以内で買える職業用クラス以上
ビジネスに必要な刺繍ソフトとは?
刺繍ソフトの種類
さてここからは、ソフトのご紹介です。
まず基本的なお話ですが、ソフトは刺繍機と同じメーカーで揃えなければいけない訳ではありません。後述しますが互換性があるという認識で探し始めて大丈夫です。
価格は7~200万円ほどとピンキリです。
いくら安くても、作りたいものの精度が出せなかったり、制作にものすごく時間がかかったりしていてはビジネスになりませんよね。ソフト選びはその辺りの費用対効果を踏まえての判断となるでしょう。
ちなみに刺繍ソフトと言えば、オリジナルデータを制作・編集する機能を指すことが多いですが、文字を刺繍するソフトもあります。
たとえば、シーンによって下記のような組み合わせが考えられます。
フォントは必要なの?
文字には楷書体、明朝体、行書体、勘亭流、角ゴシック体、丸ゴシック体・・・などがありますよね。これらのフォントがそれぞれ3~7万円程度で販売されています。
お値段の違いは文字数にもよります。名前には特殊な文字が結構使用されていますので、7,000文字以上入ったフルフォントだと安心です。
ちなみに刺繍データソフトは、画像を刺繍データに変換するソフトです。つまり「文字も画像として認識すればどんな文字でも刺繍できるんじゃないの?」という疑問があるかも知れませんね。
実際、その通りです。パソコンにはあらかじめ複数のフォントが内蔵されていますし、年賀状ソフトや無料フォントなど、詳しい方のパソコンには既にたくさんのフォントがインストールされていることでしょう。刺繍データソフトがあればこれらのフォントを、簡単に刺繍することが出来ます。
では、なぜ高額な「刺繍用のフォントデータ」がわざわざ販売されているのでしょうか?
その違いは、単純に文字の美しさ。
オートパンチ(自動変換)したものよりプロが制作した文字の方が、重なり部分が割れないなど断然きれいな仕上がりになります。一文字ずつ手作業で制作しているのですから当然高額になるわけですね。
またもう一つ重要なのは書き順です。紙に印刷した文字は書き順など分かりませんが、刺繍の場合は文字の重なりがそのまま表れます。書き順と言っても漢字だけでなく、平仮名の「あ」や「ね」などもそうですよ。
上の画像は、青がウィルコムの購入フォント、ピンクが内蔵フォントの自動変換です。重なりも変ですし、少し細部が雑な印象ですね。
ただ、書き順のみにこだわっていると、不必要に糸切が多くなり、裏側が見苦しい刺繍になることもあります。レタリングソフトはこうしたバランスをとるような工夫がなされています。
つまりネーム刺繍をメインとしてビジネスするのであれば、優れたレタリングソフトとフォントデータの導入は必須と言えるでしょう。
刺繍ソフトの導入例
現在国内の刺繍屋さんが取り入れているパターンの一例です。
本格的な高機能ソフトが欲しい
ウィルコム(WILCOM/オーストラリア)
業界で世界のトップを走る企業と言えばウィルコムでしょう。国内でもプロの刺繍屋さんをはじめ、アパレルメーカーなど多くが導入している定番の刺繍ソフトがこれになります。他のソフトからレベルアップしてこちらへたどり着く方も多く、予算さえあえばコレを買っておけば間違いないでしょう。
現行はEmbStudioシリーズでまとめられており、ESマスター(165万円)、ESデコレーティング(45万円)など、機能に応じて幅広く用意されています。機能は常に進化し、エレメントと呼ばれる追加機能で必要に応じたオプションが付けられます
たとえば、プロ向けのES_Designingベーシックに4書体付けたとして80万程度のイメージになります。
なお、CorelDRAW(コーレルドロー)が付属していますので、デザイン編集も出来ます。日本ではAdobeのIllustratorの方がメジャーですが、海外ではそうでもないようですね。
TAJIMA DG16 by Pulse
カナダのパルス社とタジマで共同開発された刺繍ソフトです。
マエストロ、アーティストプラス、イラストレーターエクストリーム、クリエーター、コンポーザーと5つのグレードがあり、こちらも使い手のニーズに合わせてアップグレードが可能なタイプとなっています。
パルスクラウドと共有することで顧客とデザインを共有したり、スマホからでもテキスト修正などが可能になります。こちらも100万円近くの構成となる高額ソフトです。
ネーム刺繍をメインに考えたい
コンピュコン(COMPUCON/ギリシャ)
漢字刺繍という独特の文化がある日本市場において、多くのネーム刺繍屋さんが愛用しているソフトです。文字も美しく、ネーム刺繍をメインに考えている方にとっては安心で理想の構成になります。
データソフトは上級者向けのEOS3、中級者向けのステッチアンドソー2があり、データ制作とネーム刺繍のどちらにウエイトを置くかで組み合わせのバリエーションが変わってきます。
たとえばネーム刺繍のみを考えた場合、ステッチアンドソー2のエディターと4書体の組み合わせで30万円程度になります。
ブラザーネームPRO
完全にネーム刺繍オンリーでしたら、こちらもおすすめです。
行書体・楷書体・角ゴシック・丸ゴシック・明朝体・勘亭流の6書体に加え、オリジナルフォントも合わせてパッケージとして販売されています。なにせ日本の会社なので万一の時の安心感はありますよね。
必要なフォントのみ選ぶことは出来ませんが、これだけのフォントが入って25万円はお値打ちでもあります。
低コストで編集時間を短縮したい
ベルニナ(BERNINA/スイス)
先に紹介したウィルコムが家庭用に開発した刺繍ソフトです。ザックリ言えば廉価版と思って良いと思います。しかし機能は侮れず、業務用としても十分威力を発揮します。多機能で、イラストレーターで制作したaiファイルのアウトライン変換などがスムーズに行えると評判です。
特にベルニナのミシン専用という訳ではなく、ブラザーやハスクバーナミシンとの連携も問題ありません。デザイナーの価格は18万円程度です。
ジャノメ デジタイザーMBX
こちらもウィルコムが家庭用に開発した刺繍ソフトになります。
デジタイザーMBX V5は定価が17万円です。CorelDRAW(コーレルドロー)の廉価版が同梱されていますので、イラストレータの無い方でもデザインを制作しながら刺繍データに変換できます。
ジャノメ Artistic Digitizer
海外で先行し、ジャノメより2020年10月に発売開始されたソフトです。先に紹介したデジタイザーMBX V5の後継という訳ではなく、新しいシリーズになります。開発会社はWilcom社ではなく、DRAWstitch社です。
CorelDRAW(コーレルドロー)のような画像編集機能は搭載されていませんが、イラストレーターなどで制作したベクターファイルの変換機能はあります。
とにかく安価に抑えたい
ブラザー 刺しゅうPRO
趣味の刺繍ソフトとしては一番人気と言って間違いないでしょう。家庭用の刺繍ミシンで人気のブラザーとの相性も良く、サポート体制も万全です。
マニュアルパンチはもちろんオートパンチも対応。文字の制作や画像変換など、一発変換という訳にはいきませんが、かなりの事はできます。
刺繍の入門ソフト?とも呼ばれており、私もこれからスタートしました。
こちらのソフトもバージョンアップを重ね、進化してきました。現行の最新バージョン「刺しゅうpro11」は2020年の9月に販売されたばかりで、安価と言っても10万円近くはします。
こちらはネットでも販売されていますが、価格にバラツキがありますのでよく比較して購入すると良いでしょう。
最後に・・
どうでしたか。刺繍ビジネスのイメージが膨らんだでしょうか?
ある意味、ソフト選びは刺繍機選びよりも難しいかも知れませんね~
特に全く初めての方には機能の名前もおそらくチンプンカンプン。触ってみてはじめて理解できることも多いでしょう。
極端な話、フリーのドローソフトにレンダリング機能を付ければ無料でデータを制作できますが、ビジネス展開は厳しいです。ソフトの場合、そうそう頻繁に買い替えるものではないので、出来れば高機能でレベルアップ(機能追加)が可能なものを選んでおくと後々よいのかな~って思います。
もし300万円くらいの予算があれば上記画像、タジマのTMEZ-SCシリーズとウィルコムのDesigningの組み合わせが超オススメです。
このクラスになれば耐久性・品質共に申し分なく、今後の展開にも幅を持たせられます。そして何より調整が楽チン。たとえば、金や銀の糸などはプロでも刺繍するのにコツがいるのですが、初心者でも扱いやすくなっています。
いずれにせよ、カタログスペックだけでは分からないと思いますので、ショールームのある代理店を訪ねるのが良いでしょう。
以上、今回は、刺繍をビジネス展開したい方に向けた、刺繍機&ソフトの選び方でした。
なお、刺繍機や刺繍ソフトに関する詳しい情報は姉妹サイト「糸の帆」で詳しく解説いたします。
それではまた・・・
※文中の刺繍機画像は、株式会社イーオーディー(WILCOM日本総販売元)にて撮影させていただきました。